黙夫の詩の菜園 言葉の収穫

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《ソレ》の侵食

私の中に取りついた《ソレ》
捉えどころのない《ソレ》は
私の中に住み着き
私の内部をゆっくりと侵食し
言い知れぬ不安を私にもたらす
私は《ソレ》を追い出したいが
《ソレ》が何なのか分からず
どのように追い出せばいいのか
皆目かいもく見当もつかない
そうこうしているうちに
《ソレ》は私の内部で肥大化し
私の細胞の所有権を主張し始め
私に取って代わろうとする
《ソレ》に乗っ取られたところで
私は死ぬわけではないが
しかし、私は《私》を
失うことになる
それはある意味で
死よりも凄惨せいさんなことかもしれない
私は自分の本体を失ったまま
身体だけが《ソレ》によって
生かされるのだから
早く何とかしたい
だがこれは
体の病気でもなければ
心の病でもない
現代医学の目で見れば
「異常なし」としか言いようのない
《ソレ》の侵食
《ソレ》はそもそも
病気なのかどうかもわからない
私の存在そのものが
おかされているような
そんな感覚
これは言うなれば
存在の問題であり
存在の病
とでも言うべき問題だ
これを治療できるとすれば
おそらく哲学か、文学の力を
借りなければならぬだろう
だから私は
詩を書くことにした
やっかいな《ソレ》と
戦うためには
言葉という武器を
手に取らなければならない
手当たり次第に
言葉を乱射して
《ソレ》を追い払うのである
そのために
今日も私は詩を書く