黙夫の詩の菜園 言葉の収穫

自作詩を載せるブログ TikTokで朗読もやってます

MENU

労働

この世で最も罪深い存在は何だ?
──人類だ
人類の犯した最も重い罪は何だ?
──愛を知ったことだ
最も重い罪に対する最も重い罰は何だ?
──労働だ
左様。ゆめ忘れるなかれ
働くことは罪滅ぼしであることを
労働は人類への懲罰ちょうばつ
わめこうがしぶろうが
辛かろうが不平を言おうが
逃れられない義務である
せっせと働くがよい
働いて働いて、くたくたになるがよい
今日も明日も明後日も
老いて労働力として使い物にならなくなるまで
働き続けるのだ
労働が嫌なら免罪符を買え
免罪符が買えぬなら労働に甘んじろ!
それが人類に課せられた宿命だ
恨むなら罪を恨め
呪うなら人類を呪え
人類として生まれてきたことを後悔しろ!
さぁ働くのだ、人の子らよ
自身にありったけのムチを打ち
その痛みを快感とするのだ
その快感を報酬として
もっと労働を欲するのだ
ムチ打って気持ち良くなって
もっと労働したいと求めるのだ!

労働のために労働し続けよ
労働をあがめよ
神を信じるのではなく労働を信じよ
──さすれば救いの道はひらかれん!

羊飼いの憐憫

人間は生まれながらにして罪を負っている
罪をあがなうために生きなければならない
生きることは罪滅ぼし
人生はみそぎである
罪には罰を与えなければならない
ゆえに人間は苦しまなければならぬ
誕生は罰であり、肉体は牢獄である
現実という名の監獄へ収容されたし
囚人たちへの娯楽も多少は必要であろう
ならば《愛》を与えよ
適度な・・・愛を彼らに与えてやりましょう
さすれば彼らの不満もある程度はおさまる
人間は言葉をもった羊である
犬の代わりに言葉で彼らを導くのだ
言葉の他に彼らは何も知らないのだから
人間──この憐れな羊たち
私はそんな人間を愛している

人間毒

僕の中には毒がある
僕の毒には味がある
苦味と酸味と憎しみと
苦悩と怨嗟えんさの味がする


君の中にも毒がある
君の毒には闇がある
嫉妬にまみれた悪臭と
腐った失意のかおりがする


彼の中にも毒がある
彼の毒には魔が宿る
誹謗中傷罵詈雑言ばりぞうごん
触るもの皆傷つける


誰の中にも毒はある
それらの毒には花が咲く
欲の種と悪意の土壌で
育った汚い花が咲く

天使のささやき

奇跡はいつだって起きている
ほら、今だって
幸運はどこにでも転がっている
ほら、そこにも


──なんだって?
そんなものはないって?
そうやすやすとは起こらないって?
そんな簡単には見つからないって?


──まったく、あわれな存在だな君は
何のために目がついているのか
何のために耳があるのか
君の口は何のためにある?
君の皮膚はなぜ全身を包む?


君はなぁんにも見ちゃいないんだな
君はなぁんにも聴いちゃいないんだな
君はロクでもないものしか口にしないし
君の肌は欠乏しか感知しない


──まったく、あきれるねぇ
せっかく楽園に住まわしてもらっているというのに
君ときたら不平しか言わないのだから


いっそのことの
君の目をいてやろうか
君の耳を潰してやろうか
君の口を固めてしまおうか
君の皮膚を腐らせようか


──そうだ、それがいい
そうした方が君はもっと賢くなれる
君はもっとよくミエルようになるし
君はもっとよくキコエルようになる
君はロクでもない事をクチ走らなくなるし
君は満たされていることをカンジルだろう


──そういうことだから君、
ちょっと痛いけど我慢してな

朝食

窓の外の景色を眺めながら
今日も僕はパンを食べる
枯れ葉の落ちきった木々が枝を広げ
寒空の下にたたずんでいる
何か皆で万歳をしているみたい
乾いた青空の中をわた雲が
行くあてもなく静かに流れていく
僕の人生と同じように
おかげで地球が回っていることを感じる
僕はコーヒーをすす
いつもの苦味が舌から脳へ伝わる
もう飽きるほど飲んだ味なのに
今日もこの一杯を求めている
地球が毎日回るのと同じことか
今食べているこのパンは
体内で分解され
必要な栄養素が取り込まれ
不要なものは糞便となって排泄される
そしてまた必要な栄養素をるために
僕は明日もパンを食べるのだろう
僕の存在もこのパンと同じか
国家は僕から税金をむしり取って
老いて不要になったらおはらい箱
そしてまた新たなパンから
税金をむしり取るのだ
それでも地球は回っている
それでも僕はパンを食べる
それでも僕はコーヒーを啜る
そしてあの木々のように僕もまた
万歳しながら枯れていくのだ