黙夫の詩の菜園 言葉の収穫

自作詩を載せるブログ TikTokで朗読もやってます

MENU

たわし犬

犬が話しかけてきた
それは黄金の毛皮をまとっていた
…というのは嘘だ
それは小汚い、たわしのような短い毛の犬だった
首輪もリードもついていないその犬は
さびれた公園の、砂場のかたわらで
人生への失望と、世の中への憤怒を
たぎらせたような目で
わうわうとえていた
私は彼の隣に座り
「わかるよ」と一言うなずいてみせた
犬は私の腕を噛んだ
私は一瞬どきっとした
彼は見抜いていたのだ──
私は犬に対して非礼をびた
私は何もわかってなどいなかった
彼の方が私よりもはるかに悟っていたのだ
それから私は犬に教えをうた
犬は私にしょうべん・・・・・れた
「なるほど」
あかく染まりゆく空の彼方かなた
カラスの一群が飛んでいった
陽が沈む方とは逆の方に向かって
真一文字もんじに飛んでいった
私はそろそろと腰を上げ
犬に対して慇懃いんぎんに礼をし
公園を後にした
犬の目の中に見ていたもの──
それは私自身であった