おれの言葉は通じない
おれの緑は肌の色
おれの鼻はカッターナイフ
おれの土は北極星
おれの愛は無関心
おれは母国語を介さない
だからだろうか
おれの言葉は届かない
おれの喜びも
おれの悲しみも
おれの叫びは
虚空を切って
亡霊となって
おれは辞書が読めないし
みんなはおれの辞書が読めない
おれの言葉は
おれにしか共有されない
おれは憤りを
通り越して
もうくたびれた
おれの言葉が
誰にも届かぬのなら
どうして
おれは存在するのか
なぜおれの辞書は
違うのか
どうしておれの頭には
一般的な辞書が
備わっていないのか
ふつうの辞書を
インストールしても
文字化けして
読めないのだ
おれはおれとしか
対話できない
だったら
初めから
おれのような存在を
創造するなよ
言葉のない
彼岸かどこかの世界で
引きこもっていれば
よかったではないか
誰かおれを
辞書の束で埋めてくれ
そして
火を放って
おれごと燃やしてくれ