階段を登る
コッツン…コッツン…
響きわたる靴の音
永遠に続くらせん階段
ひたすらに僕は登り続ける
ここは巨大な“塔”の中
最果ての荒野に
天まで貫く巨大な“塔”
窓一つない白い“塔”
地上にある唯一の入り口
入ってみると何にもない
壁面に沿ってつくられた階段
らせん状に続く階段
それだけがずっと続いている
何の目的でつくられたのか
階段はどこまで続くのか
登った先に何があるのか
一切のことはわからない
それでも僕は登り始めた
自分の意志でも好奇心でもなく
何か宿命のようなものに従って
導かれるがままに登り始めた
それからどれほど時が経ったか
もはやわからなくなっている
永遠に続く階段
一定間隔で照らし出される
壁面に埋め込まれた
ずっと代わり映えのしない光景──
今外は昼なのか夜なのか
窓がないからわからない
時間感覚は失われていき
階段を登る足音だけが
虚空に時を刻んでく──
ひたすらに階段を登り続ける
腹が減ったら携行食を口にし
くたくたに疲れ果てたら
寝袋にくるまって仮眠をとる
何日もそれが続いている
コッツン…コッツン…
階段は続く
もうずいぶん高いところまで来た
下を見れば底なしの
今さら入り口まで引き返すことは
もはや出来ない
もう登るしかない
それからさらに何日かが過ぎた
食料は尽きた
水ももう
上を見上げても終わりは見えない
“塔”はどこまでも果てしない
絶望に
と同時に怒りが込み上げてくる
なぜてっぺんにたどり着かないのか
どうして終わりが来ないのか──
果てしないことへの憤怒
永遠に対する絶望
いっそのこと
下に向かって飛び降りてしまおうか…
それでも僕は登り続けた
さらに何日も登り続けた
それは意地なのか執着なのか
僕は‘果て’を信じて登り続けた
水も食料もなく
疲労
もはや僕の頭の中には
ひとつの観念だけが占めていた
‘果て’があるということだけが
僕の思考を支配した
それはやがて《神》に変換された
‘果て’=神
この階段の先にきっと《神》がいる
その観念だけが僕を突き動かす
腕を引きずり腹を引きずり
足を引きずり──
死にもの狂いで一段一段
階段をよじ登る
しかしとうとう限界が来た
もう
腕も足も
僕はここで終わるのか…
僕はここで死ぬのか…
結局“塔”のてっぺんには
たどり着けなかった
僕はここで
これは‘果て’なのだろうか
生の終わり、人生の‘果て’──
それとも僕はこれから
永遠の中に溶けていくのだろうか
‘果て’のない《無》の中に
組み込まれていくのだろうか──
最期の
僕はそんなことを考えた
そして《神》をみた