黙夫の詩の菜園 言葉の収穫

自作詩を載せるブログ TikTokで朗読もやってます

MENU

“塔”

階段を登る
コッツン…コッツン…
響きわたる靴の音
永遠に続くらせん階段
ひたすらに僕は登り続ける


ここは巨大な“塔”の中
最果ての荒野にそびえ立つ
天まで貫く巨大な“塔”
窓一つない白い“塔”


地上にある唯一の入り口
入ってみると何にもない
壁面に沿ってつくられた階段
らせん状に続く階段
それだけがずっと続いている


何の目的でつくられたのか
階段はどこまで続くのか
登った先に何があるのか
一切のことはわからない


それでも僕は登り始めた
自分の意志でも好奇心でもなく
何か宿命のようなものに従って
導かれるがままに登り始めた


それからどれほど時が経ったか
もはやわからなくなっている
永遠に続く階段
一定間隔で照らし出される
壁面に埋め込まれたほの明るい照明
ずっと代わり映えのしない光景──


今外は昼なのか夜なのか
窓がないからわからない
時間感覚は失われていき
階段を登る足音だけが
虚空に時を刻んでく──


ひたすらに階段を登り続ける
腹が減ったら携行食を口にし
くたくたに疲れ果てたら
寝袋にくるまって仮眠をとる
何日もそれが続いている


コッツン…コッツン…
階段は続く
もうずいぶん高いところまで来た
下を見れば底なしの奈落ならく
今さら入り口まで引き返すことは
もはや出来ない
もう登るしかない


それからさらに何日かが過ぎた
食料は尽きた
水ももうわずかしか残っていない
上を見上げても終わりは見えない
“塔”はどこまでも果てしない


絶望にさいなまれる
と同時に怒りが込み上げてくる
なぜてっぺんにたどり着かないのか
どうして終わりが来ないのか──
果てしないことへの憤怒
永遠に対する絶望
いっそのこと
下に向かって飛び降りてしまおうか…


それでも僕は登り続けた
さらに何日も登り続けた
それは意地なのか執着なのか
僕は‘果て’を信じて登り続けた
水も食料もなく
疲労困憊こんぱいの極限に達していたが
ってでも登り続けた


もはや僕の頭の中には
ひとつの観念だけが占めていた
‘果て’があるということだけが
僕の思考を支配した
それはやがて《神》に変換された


‘果て’=神
この階段の先にきっと《神》がいる
その観念だけが僕を突き動かす
腕を引きずり腹を引きずり
足を引きずり──
死にもの狂いで一段一段
階段をよじ登る


しかしとうとう限界が来た
もう身体からだは動かない
腕も足もなまりのようになってしまった
僕はここで終わるのか…
僕はここで死ぬのか…
結局“塔”のてっぺんには
たどり着けなかった


僕はここでち果てる…
これは‘果て’なのだろうか
生の終わり、人生の‘果て’──
それとも僕はこれから
永遠の中に溶けていくのだろうか
‘果て’のない《無》の中に
組み込まれていくのだろうか──


最期のかすかな意識の中で
僕はそんなことを考えた
そして《神》をみた