黙夫の詩の菜園 言葉の収穫

自作詩を載せるブログ TikTokで朗読もやってます

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自作詩

あの10月

風に弄(もてあそ)ばされて 落ち葉がひらひら舞う 10月はもう過ぎ去ったから あの(・・)10月はもう過ぎ去ったから 時間を戻す術(すべ)はないのか 落ち葉が落ちずに済むように… あの(・・)10月を取り戻すために… 残念ながら 過去は存在しない 宇宙は終…

私が機械であったなら

私が機械であったなら 私は何も感じずに済むのに 辛い思いをせずに済むのに 痛い思いをせずに済むのに 私の頭が機械であったなら 過ちを犯すこともないのに 瞬時に物事を理解出来るのに スイッチを切るだけで眠れるのに 私の肉体が機械であったなら 腹が減る…

銀色の種

ひび割れた荒野の 死んだ大地の上に 銀色の種を蒔(ま)く しあわせが育つように 川もなく森もなく 雨も降らないこの病んだ大地に 銀色の種を蒔く きぼうが芽生(めば)えるように 雨はなくとも涙がある 涙で大地を濡(そぼ)つかせれば 銀色の種は育つだろ…

異世界転生

ある日僕は悟ってしまった これまで‘現実’だと思っていたこの世界が 実は“異世界”だったのだ、と 僕はどこか別の世界から この罪深き邪悪な世界に ‘転生’されてきたのだ、と 前々からおかしいとは思っていたんだ なぜこの世界はこんなにも 文明レベルが低い…

神骸戦争

天地のひっくり返る夜 生きとし生けるものは死に 黄泉(よみ)の国が独立を果たす 怨念、無念が天に撒(ま)かれ 神々と骸骨の戦争が始まる 光は影として、影は光として 魂は地へと埋め込まれ 体液の雨が降り注ぐ 墓地は要塞と化し 骨の軍楽(ぐんがく)が鳴…

去り行く

月日は過ぎ去って行(ゆ)きました… 木陰(こかげ)の隙間から覗(のぞ)かせる日光の あの暖かい微笑(ほほえ)みは 過ぎ去って行きました… 一面に広がる麦畑を揺らす あの漣(さざなみ)のような優しいそよ風は 過ぎ去って行きました… 忙(せわ)しない雑…

原語

湧(わ)き立つ風の中に その声はまぎれる ア…ア… 鼓膜は 聴こえないふりをする ア… ア… 大地から立ちのぼる 音(ne)のつぶやき エ… 頭には 見えていない エ… ア… 鼓動が それを感じる ウ… U── 星の 呼びかけ 創世(そうせい)の またたき …ウ! 見えぬ 聴…

針の穴

真っ白な碧(あお)い壁に 突端のへし曲がった鈍色(にびいろ)の針を 突き刺す そこには小さな、矮小(わいしょう)な、極微な、些細な 穴が開(ひら)く 針の穴 その穴を薄ぼんやりと見つめていると 秒の紡(つむ)ぐ作業工程を感じる ふと思い立ち その針…

自己愛歌

《私》へ── たとえ何が起ころうとも 私は決して私を裏切らない たとえ誰にも好かれなかったとしても 私は私を好きでい続ける たとえ富も地位も名声もなかったとしても 私は私を受け入れる たとえ私が何者にもなれなかったとしても 私は私でよかったと断言す…

おれの辞書

おれの言葉は通じない おれの緑は肌の色 おれの鼻はカッターナイフ おれの土は北極星 おれの愛は無関心 おれは母国語を介さない だからだろうか おれの言葉は届かない おれの喜びも おれの悲しみも おれの叫びは 虚空を切って 亡霊となって 這(は)いまわる…

自分

極寒の南極にひしめくペンギンの群れ サバンナを行軍するヌーやシマウマの群れ 季節ごとに移動するチドリの群れ それぞれの生物種にそれぞれ固有の生き方がある 遺伝子に刻みつけられた宿命 何者もその宿命から逃れることはできない ペンギンはシマウマのよ…

危機的状況

コンクリートの茨(いばら)の下で 石でできたパンを食べる 小さな文字でびっしりと埋められた 手紙を読んで深いため息を吐(つ)く ラジオが発するノイズ バタバタと猛(たけ)り狂う文鳥 染みだらけの窓から差す陽の光 それらは別にいい それらは別に危険…

鶏か卵か

夢か現(うつつ)か正気の沙汰か 意識の旅はつれづれなる 生きているのか死んでいるのか その問題はさておくにしても 存在するのかしないのか 沽券(こけん)に関わる大案件 意味か無意味か意味深長か 終日(ひねもす)頭を悩ませる 始まりの終わりか終わり…

僕は空っぽ

僕は空(から)っぽ 頭が空っぽ 覚えたことはすぐに忘れる 何か意見を言ったとしても 中身が空っぽとよく言われる 僕は空っぽ 心が空っぽ 感じることは何もない 本も映画もアニメもゲームも 僕の心を満たさない 僕は空っぽ 胃の中も空っぽ 腹は減るけど冷蔵…

虫になりたい

虫になりたい 虫のように 小さな命でありたい ちっぽけな存在でありたい 儚い生涯でありたい 虫のように 飛ぶ羽根が欲しい ちょこまか動く足が欲しい 考えない矮小(わいしょう)な脳が欲しい 虫のように すぐ踏み潰されたり 他の動物に捕食されたり 殺虫剤…

転がる

坂を下って 転がるボールは 柱にぶつかり 跳ねかえる 蹴っ飛ばされた 路傍(ろぼう)の小石は ころころ転がり 静止する 路傍の石には 意思はあるのか 一心不乱に 考える ヒトは考え 思考は巡る 巡る思考は 頭を転がす 転がる頭 ぐるぐる回る 脳が乱され ゲロ…

最果ての街の住人たち

星になることを夢見るホクロ専門の医者 今日も聴診器片手に時の齧(かじ)る音を聴く 50年先の予定まで綿密に立てる廃駅の駅長 今日もやってこない列車を待ち続ける 人生に意味などないと口癖のように言う老いぼれの庭師 今日も目に見えぬ幻覚の植木を手入れ…

孤島の少年

絶海の孤島に住む、一人の少年 少年の他にこの島に住む者はいない ひとりぼっちの島暮らし 周囲は断崖絶壁に囲まれ、海は遥(はる)か下に広がる ゆえに、この島から出ることは不可能だ 鳥のように飛んでいけるのなら、話は別だが… 島は狭く、一時間も歩けば…

《ソレ》の侵食

私の中に取りついた《ソレ》 捉えどころのない《ソレ》は 私の中に住み着き 私の内部をゆっくりと侵食し 言い知れぬ不安を私にもたらす 私は《ソレ》を追い出したいが 《ソレ》が何なのか分からず どのように追い出せばいいのか 皆目(かいもく)見当もつか…

そんなものはない

流星の煌(きら)めく満天の星空 そんなものはない 星は流れてなどいない 永遠に誓った愛 そんなものはない 愛は長続きなどしない 天使のような微笑み そんなものはない 天使は微笑んだりしない 君との運命の出会い そんなものはない 運命は偶然のいち解釈に…

右か左か

右か左か どちらの道を進むべきかわからないって? そんな時は、迷わず右を選べばいいのさ なんせ、右は英語でright(正しい)なのだから なんだって? もしそれで右が正しくなかったらどうするかって? そんな心配はしなくていいさ なんせ右はrightなのだか…

正常な世界

眠りとともに夢から覚めて 太陽が東から沈み西へと昇る影のあるところに光が出来て 鳥が地面を優雅に泳ぐ──何もおかしくはない おかしいのは私の存在だけ子どもから親が産まれ 空から草花が萌え出(い)ずる水が溶けて氷となり 密室の中に風が吹き抜ける──何…

僕は落ちる

僕は落ちる 恋に落ちたのか? 崖から落ちたのか? 受験に落ちたのか? 信用が落ちたのか? それは定かでない ともかく、何かの拍子に僕は落ちたのである 僕は落ちる そして僕は落武者だ しかし刀は持たぬ 刀は人を傷つけるからだ そこまで僕は落ちぶれていな…

マッド・テオロジスト

普段 折りたたみ傘を持っているのに 持っていない時に限って 不意に雨が降ってきたりするよね そして雨でずぶ濡れになって くそっ 今日は何てついてないんだと 怒りが込み上げてきたりするよね でもね 僕は違うよ そんな時僕は 狂喜乱舞するんだ なぜならそ…

天国への切符

あなたは天国へ行きたいですか?どうして天国へ行きたいのですか?天国へ行けば楽に暮らせるとお考えですか?天国へ行けば、あれやこれやの苦しみから解放されるとお考えですか?あなたは、天国には何か楽しいイベントやアトラクションがたくさんあると思い…

ネガティブな時は

幸せなら手をたたこう 幸せでないならケツ叩こう 悲しいなら肘(ひじ)伸ばそう 落ち込んだら脇なでよう 憂うつなら鼻ほじろう 苦しいなら毛を毟(むし)ろう 恐いのなら腿(もも)上げよう 辛いのなら膝(ひざ)曲げよう 気持ちわるいならヘソを掻(か)こ…

とある三流哲学者の思索

1+1が2であることの脅威 猿も木から落ちることへの失望 太陽が東から昇ることへの懐疑 あらゆる物体が原子からなるという安堵 無を創造することへの憧憬 彼女ができないことへの焦燥 否定の否定が肯定であることへの不満 砂浜の砂粒を数え上げるがごとき恍…

神の存在証明

すべての人間は死ぬ ソクラテスは人間である したがってソクラテスは死ぬ ゆえに神は存在する すべての鳥は翼をもつ すべての天使は翼をもつ したがって天使は鳥である ゆえに神は存在する 金持ちは金を持つ 貧乏人も金を持つ したがって貧乏人は金持ちであ…

時間の王国

はじまりがあって、終わりがくる 過去は流れ去り、未来が押し寄せる 誕生したものは、やがて死ぬ 時間の王国 時が支配する領域 すべてが終わりに向かっていく世界 そんな世界に生きる僕らは、時間の奴隷だ 大空に放たれた矢は、どこまでも飛んでいくことはで…